Stripe Sessions 2025のオープニングキーノート

2025年5月に開催されたStripe Sessions 2025に参加中です。1日目(5/6)のオープニングキーノートで紹介された内容について、ざっくりまとめました。

共同創業者パトリック兄弟によるオープニング

イベントはStripe共同創業者兼CEOのパトリック・コリソン氏とジョン・コリソン氏の二人によるセッションからはじまりました。今回のセッションは過去最大規模で、前年比32%増の約8,000人が参加だそうで、決済や収益などに関する注目度の高さ・熱意の高さを感じました。

Stripeエコシステムの成長

キーノートではStripeエコシステムの驚異的な成長について、いくつかの印象的なデータの共有がありました。2024年、Stripe上に構築されたビジネスの収益はS&P 500企業の平均より7倍速く成長したといいます。同年には約4,000億ドルの新たな決済量が追加され、「Stripeエコシステムの成長はEU全体の経済成長にほぼ匹敵する規模」だと表現しました。

Stripeは2024年に1.4兆ドル以上を処理し、これは世界のGDPの約1.3%に相当します。米国では200万以上のビジネスがStripeを積極的に利用しており、これは米国のビジネスの約6%に当たるとのこと。さらに、フォーチュン100社の50%、Forbes Cloud 100の80%、Forbes AI50の78%がStripe上に構築されていると報告されました。

Stripeの信頼性と進化

続いてStripeが顧客に提供している信頼性と継続的な改善についてのレポートが紹介されました。Stripeでは、1日平均1,145件のプルリクエストをデプロイ(週末も含む)し、重要なAPIで99.99986%の可用性を維持しているとのことです。これは年間でわずか約44秒のダウンタイムのみという驚異的な数値です。

「私たちは皆さんにとって、最も速く改善するインフラストラクチャーであると同時に、最も信頼性の高いプラットフォームでありたいと考えています」というコメントも、数字とともに紹介されました。

Stripeのビジョン

パトリック氏のパートは、最後にStripeのビジョンについて触れて終了でした。Stripeでは、「プログラム可能な金融サービスを構築」しているとのことです。お金が日常的な形で何千もの異なるシステムに存在し、それらが常に上手く連携しきれていない現状のなかで、お金をあらゆる形のデータと同じくらい簡単に操作・管理できるようにすることをStripeは目指します。それによって、新しい市場の立ち上げや、まったく新しい収益モデルのテストと展開が可能になります。

ジョン・コリソン氏によるインターネット経済の動向分析

続いてパトリックの弟でStripeの社長であるジョン・コリソン氏が登壇し、インターネット経済の現状などについて紹介がありました。

ブレイクアウトビジネス・SaaS・クリエイタープラットフォームの動向

このパートでは、2年以内に収益が100万ドルから1,000万ドルに成長した「ブレイクアウトビジネス」というセグメントについて紹介がありました。

このカテゴリに該当するAI企業は驚異的な成長を示しており、設立から3年以内のAIスタートアップは平均9か月でARR(年間経常収益)500万ドルを達成しているます。例えばサイトやアプリを作成できるスタートアップのLovableは4か月でARR5,000万ドルを達成し、「ヨーロッパで最も急成長するスタートアップ」になりました。またCursorは2年で3億ドル以上のARRを生み出しているそうです。AIの採用率について「基本的に正方形の波」と表現し、他のテクノロジーと比較して前例のない速さで普及していることが紹介されました。

SaaSプラットフォームについても言及がありました。米国の中小企業の60%が何らかのSaaSプラットフォームを使用して事業を運営しています。これらのプラットフォームは中小企業にテクノロジー、自動化、AIを提供し、生産性向上をもたらしています。セッションで紹介された事例では、Toast(レストラン向け)、Jobber(配管工向け)、Mindbody(ジム向け)などがあがっていました。

クリエイターエコノミーの拡大についてもジョン氏は触れていました。Stripeを通じてコンテンツを収益化するクリエイターの数は過去2年で2倍以上に増加。ゴールドマンサックスによると、オンラインコンテンツで年間10万ドル以上を稼ぐ人は約200万人で、「もしクリエイターカンパニーが一社だったら、ウォルマートを超える世界最大の民間雇用主になる」と表現されました。Z世代の57%がインフルエンサーになることを望んでいるというデータも紹介されています。

最も速く成長している企業の特徴

ジョンは、Stripe上で最も速く成長している企業に共通する4つの特徴を挙げました。

1つ目はグローバル展開の早期化です。例としてMidjourney(AIイメージ生成サービス)は設立3年で200以上の国と地域に販売しています。そして2つ目は専門化です。今日の広大なインターネット市場が専門化を促進しています。AIの分野ではHarveyやNavlaのような企業が法律や医療業界に特化したAIツールを開発。SaaSプラットフォームもTrackero(レッカー車向け)、DanceStudio(ダンス講師向け)、JetSmart(小型航空会社向け)など特定分野に特化しています。

3つ目の特徴は、新しい価格設定モデルの採用です。AIの普及に伴い、従来の定額制から使用量ベースの課金や成果ベースの価格設定へと移行しています。例えばIntercomは「サポート担当者あたり」の価格設定から「解決したケースあたり」の価格へと移行しました。「AIが生産性を向上させる世界では、より多くの人材を雇用することに依存する価格モデルは望ましくありません」という指摘もありましたが、労働人口が減少し続けている日本では、この傾向がより大きくなるかもしれないなと感じました。

4つ目は従業員あたりの収益率です。Cursorは160人の従業員で3億ドルのARRを達成(従業員1人あたり500万ドルの収益)しており、「これは大手テック企業の指標をはるかに上回る」と評価されました。また、Gloss Geniusは300人の従業員で19万のサロンとスパをサポートしています。

AI企業のリテンションデータ

AIサービスのリテンション(継続利用率)に関するデータも共有されました。個々のAI企業は従来のSaaSよりも低いリテンション率を示すものの、業界レベルでは、AIはSaaSよりも高いリテンションを示しているとのことです。つまり、ユーザーは様々なAIツール間で切り替えるが、AI全体からは離れない傾向があります。ジョン氏はこの状況を、「誰も一人で考えることに戻らない」と表現されていました。

将来のテクノロジートレンド

ジョン氏はセッションパートの最後に、今後の経済成長を牽引する2つの主要なテクノロジートレンドとして「ステーブルコイン」と「AI」を紹介しました。

ステーブルコインは前年比で39%増加し、2大ステーブルコイン発行者は米国債保有者として17位に位置しています。急速に上位に進出しているとのこと。ジョンはステーブルコインを「室温超伝導体」と表現し、摩擦とエネルギー損失を大幅に削減する特性を強調しました。「本物のユーティリティを持つ暗号資産」だと評価しています。

Stripeが買収したBridgeは、ステーブルコインインフラを構築し、Stripe自体の初期成長を上回る成長率を示しているとのことです。XやRemote.com、Scale AIなどがすでにグローバルな支払いにステーブルコインを使用し、SpaceXなどの大企業も社内のボーダレス金融サービスに利用しています。

AIについては、ジョンがCursorを使ったライブコーディングデモを実施。AIがプログラミングをどのように変革しているかを示しました。プロンプトを入力するだけで、完全なアプリケーションを作成し、さらに修正も可能になっています。「AIコーディングはまだ大規模なコードベースのナビゲーションや多くのコンテキストを処理することは克服していない」としながらも、「生産ソフトウェアを構築するための時間とコストをすでに削減している」と評価しました。

エージェント型コマースの出現も注目すべき点です。StripeMCPを使用したデモを行い、AIが購入決定を行い、取引を実行する新しい商取引形態を紹介しました。「30年後、AIエージェントによる商取引が始まった瞬間を覚えていますか?と聞かれたら、あなたはここにいたと答えられるでしょう」と言い切るほど、この流れについては「不可避な流れだろう」という確信めいたものをセッションから感じました。

キーノートはYouTubeから振り返り可能

このあとキーノートは、パネルディスカッションへと移行しました。こちらについてもレポートを作成中ですが、もう少し時間がかかるかもしれません。

内容やデモが気になるという方は、ぜひYouTubeでアーカイブをご覧ください。

【有料】注目のブレイクアウトカンパニー

Stripe Sessionsで話題となった「ブレイクアウトカンパニー」について、キーノート内でも紹介のあったAIスタートアップを3社ほど調べてみました。

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