WordCamp Asia 2024のキーノートで、CMSのいく先について考えさせられた話

2024年の3月に台北でWordCamp Asia 2024が開催されました。

登壇者として行った話や、内容の振り返りは別途やろうと思います。今回は1日目のキーノートが個人的にすごく刺さったという話をします。

実況ポストと写真で振り返るキーノート

開会式の後にあった1日目のキーノートは、Noel Tock氏がWordPressの現在と未来について話すものでした。2023年には新規のWordPressサイトの増加数が減少するなど、ノーコード系のSaaSやHeadless CMSなどとの競争がより激しくなっていることからセッションは始まります。

技術のSカーブと、Composable CMS

その中で紹介されたのが、「技術のSカーブ」でした。

イノベーションのジレンマも近しいかもしれません。ある程度プロダクトが成熟してくると、その後に出てきた概念や技術への対応が後発よりも遅くなってしまうことは、どの界隈でも見かける出来事です。

技術のSカーブ(S字カーブ理論)とは、多くの科学技術・工業技術に共通して見られる性質の一つで、技術の発展・進歩のペースが、当初は緩やかに、その後急激になるが、やがて限界が近づき再び緩やかになるというもの。

https://e-words.jp/w/%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%81%AES%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%96.html

セッションの中では、「従来のCMSとしてのWordPressをMonolithic CMSとすると、次の成長に向かうためのSカーブはComposable CMSとしてのWordPressだ(意訳)」と紹介されていました。「Composable( 合成可能な ) CMS」とは、簡単な説明としては「入力したデータを組み合わせ(合成)してコンテンツを配信できるCMS」というべきでしょうか。Sanityが強調しているキーワード、「一度入力したら、どこでも利用できる」が個人的には気に入っています。

「サービスの価格やプランを変更したけど、コンテンツマーケティング用に作成した記事のいくつかに、古い料金情報が残っていた」や「ユーザーごとにLPを用意したいが、毎回似たような内容のページを作成・編集しないといけない」みたいなエピソードは、社内でウェブサイトを運用されている方には心当たりがあるのではないかと思います。このようなケースに対して、「一度入力したデータは、どこでも再利用できるようにする」ことができるComposable CMSということになりそうです。ちなみにNoelが考えるComposable CMSについては、2022年に書かれた記事がとても面白いので、ぜひ翻訳ツールを使ってお読みください。

https://dxpwtf.substack.com/p/composable-content-platforms-2023

AIを利用した、「ドリルではなく、穴が欲しい人」にむけたソリューション

この見出しは個人的な意見ではあります。「コアと市場のニーズに乖離がある」という指摘はキーノート内であり、自分なりの言葉にすると「ドリル(WordPress)ではなくWebサイトとそれを通したビジネス目標の達成(穴)が欲しい人とどう向き合うか」になるかなと思います。

サイトを簡単にセットアップするだけでなく、コンテンツやレイアウト・機能までを簡単に用意できるフローを、LLMそしてLangChain等を利用したAgentsを用いた「依頼ベースで実現できるようにする」方法が提案されていました。

機能ごとにAgentを用意して、GPTsやLangChain的なものが「新しいアプリの紹介と申し込みが受け付けられるサイトを作って」のようなテキストでの指示をもとにさいとのセットアップをするイメージですね。その場合のUIイメージとしては、Zapierのオンボーディング画面が紹介されました。

たしかに「どんなサイトが作りたいですか?」または「どんな目標を、ウェブサイトで達成したいんですか?」という問いかけに回答すれば、それにあったサイトをセットアップしてくれるのはとても魅力的です。また、ブロックパターンや同期・非同期ブロックなどの仕組みを活用することで、Composableなコンテンツ管理やAgentベースでのセットアップを実現させる下地はできているかなと思います。

「AIモデルを実行する費用」を誰が負担するか?が鍵かもしれない

アイディアとしてとてもよいなと思いつつも、OSSプロジェクトとしてコアに導入するのは大変そうだなとも感じたのがこのAIベースなサイトセットアップ機能です。障害になるかなと思うのは、AIモデルのコスト負担を誰が行うかという点です。

セットアップ画面をZapierのようにして、入力されたテキストをGPT-4なりClaude 3なりを通して構築作業を指示するのはそこまで難しく無いと思います。が、それらのモデルを実行する環境やファインチューニングのコストを誰かが負担する必要があります。そのため現実的なところとしては、このようなセットアップ支援機能は、ホスティング会社がWordPressホスティングのオプションとして提案するか、Jetpackのようなプラグインがビルダー機能を提供するかのどちらかになるのではないかと考えています。ちょうどつい最近サイトの障害を復旧する仕組みをAIベースで提供する機能を提供された会社がいますので、今後に期待したい分野だなと思っています。

https://www.xserver.ne.jp/news_detail.php?view_id=12406

LLMまわり、もっと頑張ろうと思ったキーノート

セッション後の感想がこちらです。「WordPressのカンファレンス行ってきた感想か?」と言われると、なかなか返答に困りそうなことを言っていますね・・・

とはいえ、仕事やコミュニティ活動などでLLMを利用するまたは組み込むことで効率化や新しいことに挑戦する取り組みを最近続けている身として、「WordCampでもこういう話が出るということは、これは不可避な流れだろうな」と強く感じました。

AgentsまわりよりもRAGに力を入れていたこともあり、「そうか、そんなやり方・考え方あるんだな」と感じたイベントでもありましたので、今回の登壇で「9年前の宿題を提出しにきたぞ!」とやったように、「2024年に聞いた話から、こんなの作った・考案したぞ」と言えるものが作れたらなーと思っています。

最後にアフターパーティでNoelと委員長のJon、そして自分のセッションで司会をしてくださったYoastのTacoさんとの写真を載せて、キーノートの感想文を締めたいと思います。

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