WordCamp Asiaで2年連続登壇の感想 – 中の人として、そして英語で登壇するということ

WordCamp Asia 2023 / WordCamp Asia 2024それぞれで日本からのスピーカーとして登壇してきました。アジア圏における、フラッグシップWordCampの第1回・第2回の両方にスピーカーとして参加することができたのは、とても幸運なことだと思います。

英語での登壇はいまだに苦手

得意か苦手かで言えば、「非常に苦手」です。現地でWordCamp Asiaに参加された方は、登壇2時間前くらいから会場を真っ青な顔でフラフラしているところを見ているかもしれません。

Stripeというグローバル企業で働いてはいますが、帰国子女でもなく留学経験があるわけでもないただの日本人ですので、慣れているわけがないのです。

Stripeに入社した直後には、「Do you make sense?(〜ということだけど、わかった?)」が理解できず、「説明してくれたことはわかったんだけど、『わかったかどうかを聞かれていること』がわからず、それを伝えれない」なんて状況を起こしてしまう程の英語力でどうにかこうにか登壇や仕事を取り組んでいます。

それでもフラッグシップWordCampで登壇したかった

そんな状態なので、英語での登壇はいまだに心理的ハードルが非常に高いです。ただ、「初めてのアジア圏でフラッグシップWordCamp、できるならスピーカーとして参加したい」というモチベーションはありました。幸いにも応募したセッションが採択されたため、Stripeのチームメンバーにも協力を得て資料のレビューや練習をしてから挑みました。

緊張のあまり時間を大幅に余らせた2023年

練習などをしてきたつもりではありましたが、それでも初めてのフラッグシップWordCampでの登壇はもっと頑張れたんじゃないかと思う結果でした。40分の枠がありましたが、早口になってしまうなどによって20分で終了し、質疑応答もあまり出てこなかったため、実質ショートセッションと同じような枠としてしまいました。

この記事を書いている時点から振り返ると、コンテンツの内容についてもまだまだ「企業の中の人として話すこと」に慣れていない部分があったなと思います。公募も通らずスライドチェックも通らなくなるだろうと思っていましたので、製品の宣伝にならないように応募文や資料を作成しました。しかしやはりまだ「自分の経験」や「なぜそれをやるのか」といったWhy / Whatの話ではなく、「どうやって作るのか」のHowにフォーカスしがちだった時期でした。このため参加者が「自分に関係がある内容だ」と感じることが難しく、質疑応答や感想といった反応があまり得られなかったのではないかと考えています。

自分の体験の共有にフォーカスした2024年

2023年の登壇が自分の中で不完全燃焼だったため、2024年のWordCamp Asiaのセッション公募にも応募しました。この時はあえてStripe社員としてではなく個人として応募しています。これは自分の経験にフォーカスした内容を話そうとした場合、あまりStripeと関係のない話ばかりが候補にあがったことと、開催地である台湾でそもそもStripeが利用できないことの2点があります。

こちらの登壇も、準備万端で迎えたというわけではなく、登壇60分前くらいから会場内をずっとソワソワしていました。「ちょっとその辺散歩しよっか?」と実行委員として参加していた日本の方に声をかけられる程度にはガチガチだったのを記憶しています。

登壇自体も英語ですごく流暢に話すことができた・・・とかではなく、壇上で数秒「あれ、なんていうんだっけ・・・?」と固まる場面が何回もありつつ、勢いで押し切った感はあります。

とはいえ、「この時はこういうことを考えて、その結果こうなった。これは今やるならこんな考え方になると思うよ」みたいなフォーマットで9年の取り組みを振り返る形をとったおかげか、2023年と比較して参加者を置いてけぼりにしている印象はほとんどありませんでした。「やっぱPHP書きたくなるよね」とか「Headless WPのこういうところは大変だよ」みたいな話をしている時には、会場の何人かが「だよねー」とでも言いたげな頷きや苦笑いをされているのも見えて、気持ち的にもすごく話しやすい空気になっていたと思います。

質疑応答も時間いっぱい手が挙がりましたし、セッション後も体感として30分くらいは色んな人に声をかけられました。ここまで色々と声をかけられる体験は、正直日本でもあまりなかったので、「やっぱりこういう話がみんな聞きたかったんだな」という実感をより強く持つことができた登壇でした。あと、登壇後真っ先に声をかけてくれた方が、セッション内で紹介したOSSを提供している会社(WP Engine)の人で、めちゃくちゃびっくりしたことも覚えています。

「応募すること」自体に国の違いはあまりない

日本のWordCampに加えて、これまでシンガポールとWordCamp Asiaで2回ずつ登壇をしてきました。これらを振り返ってみると、「応募する内容自体は、言語以外どのWordCampも同じ」かなと思います。どの国でもWordPressでサイトを作る方法やプロジェクトマネジメントなどの日々の仕事に関連するテーマは興味を集めますし、WP APIやIAPI、フルサイト編集といったその時点では比較的新しい機能や概念についても、知りたいと思う方は少なくありません。また、WordCampのようなコミュニティカンファレンスでは、「自分とコミュニティの関わり方」やキャリアに関するテーマについても、その経験を多くの人に向けて共有してほしいと思われることが多いのではないでしょうか。唯一の違いは、「その応募フォームをどの言語で書くか」だけだと思っています。今ならChat GPTをはじめとするLLMツールを利用して翻訳することもできますので、より応募自体のハードルは下がってきているのではないでしょうか。

英語で登壇することについて

先に書いた通り、「英語で登壇すること」そのものは苦手ですし、そこまで積極的に登壇しようとしているわけでもありません。テーマや参加者などをみて参加したいと思ったカンファレンスが英語だった時、腹を括って公募に挑戦しているだけです。

海外のカンファレンスで登壇してみたいという方は、「登壇することで、どんなことを達成したいか」を考えてみると良いかもしれません。自分の場合は、「フラッグシップカンファレンスに登壇してみたかった」「WordPressとサブスクリプションや決済の組み合わせについて紹介したかった」「Headless WordPressについてみんなどう思うか知りたかった」などがWordCamp Asiaの2回応募したモチベーションです。

参加したいモチベーションが定まると、「じゃあそれを実現するには、どんな内容で応募すべきか?」を考えることができます。例えば「Headless WordPressについてみんなどう思うか知りたかった」というモチベーションであれば、少なくとも「自分がHeadless WordPressについてどう思っているか」はセッションで話す必要があります。ということは応募する内容は自分がどのような経験をしていたかにフォーカスするか、Headless WordPressという概念や自分が期待する世界について触れるセッションになるでしょう。登壇経験を積みたい、スピーカーとして参加したいなどが目的であれば、「他の応募と被ることがなく、なおかつ実行委員が興味を持つテーマはなにか?」を考えることになります。わかりやすいのは最先端の機能や概念について紹介したり、デモをするセッションですね。

いずれにせよ、「言語の壁以外の理由で落とされる可能性」を潰していくのが大切だと思います。なので応募する内容の考え方自体は日本も海外もあまり変わりないと考えています。強いて言えば「英語でプレゼンできるか気になる」と仮に思われたとしても、「いや、それでもこのテーマは聞いてみたい・話てほしい」と思われるような内容を考えよう・・・ということでしょうか。

会場での英語コミュニケーションも「何をしたいか」から準備する

海外のカンファレンスに参加するもう1つの心理的ハードルは「会場で話しかけられても、何も話せない・・・」となることです。スピーカーとして参加すると、より質問されることが増えますし、場合によっては前夜祭などに招待されて、実行委員や他の登壇者との交流イベントが発生します。

個人的な経験値としては、「90%の会話がわからなくても、このトピックについて話をしたい」みたいな一点突破からはじめるのがよいかなと思っています。それが応募したセッションと関連していると、より「セッションではこう言ったんだけど、どう思う?」のように話すことができますし、相手も「あいつはこのトピックに興味があるはずだ」と思ってもらえるので、やりやすくなります。

イメージとしては、身体を鍛える時に、どの筋肉を使っているかを意識してトレーニングする感じでしょうか。どの筋肉を鍛えるべきかがわからないと、トレーニングしても効果があまり出ない・・・とスケジュールの関係で行かなくなってしまったジムのトレーナーから以前聞きました。もしどこを鍛えればいいかわからない場合は、動けないなりにまずは身体を動かしてみるのがよいと思います。動かしてみながら、「いまこの辺りの筋肉使ってるっぽいな」のように意識していくことで、「じゃあこの筋肉を意識して動かそう」となることができます。

雑談や自分が知らない分野の話については聞く、教わるモードに入って、話せるトピックについてだけは自分の意見を言えるように準備しておく。まずはそれくらいの割り切りからはじめても良いと思います。もし「あの話題、自分も参加したかったなぁ・・・」と思うことがあれば、次のカンファレンスまでに覚える課題としてリストに入れましょう。それによって自然と英会話学習の方向性も定めていくことができます。

そもそもコミュニティはやさしい

もう1つ大切なことがあります。それは「WordCampのようなコミュニティは、やさしい」ということです。英語でのコミュニケーションに困っている様子であれば、優しい単語や表現を使ってくれたり、場合によってはGoogle翻訳などのアプリを使いつつ会話しようとしてくれます。大切なことは、「あなたと話したい。あなたの意見を聞きたい。」という意思をしっかり示すことです。「こいつは俺の話・考えに興味がある。ただ言語の壁があるだけだ」と思ってくれた場合には、相手もなんとかして伝えようとしてくれます。行動規範が示されているカンファレンスであれば、もし嫌な対応をされたなーと思った場合は、実行委員に相談してみることもできます。

なので、応募するセッションや覚えていく英単語やフレーズなども含めて、「おれは今回のWordCampでこんな話をしたい、持って帰りたいんだ」ってのを決めてから動くと、きれいな英会話ではなくとも、得られるものは多いかなーって思いました。

おわりに

自分の振り返りも兼ねて書き出した結果、気がつけば長々とした記事になっていました。英語での登壇はこれで6回目( AWSで2回、WPで4回 )ですが、まだまだ日本のカンファレンスほど気軽に応募するまではいたっていません。それでもそこに参加する、話題を投げ込むことで、得られたものはとても多いと思っています。NoelのComposable ContentやAI利用に関するアイデアなどは、登壇に挑戦していなかったら知らない世界・遠い世界のままだったかもしれません。

流石に同じカンファレンスに3回連続で登壇するのは、「他の人が喋った方がよいのでは」というネタしか出せない気がしますので、来年のWordCamp Asia ( 2025 )は他の日本勢を日本から応援するポジションになろうと思っています。思いついたらしれっと応募しているかもしれませんが。

こうやっていろいろと挑戦していくことと、そこから他の人の新しい挑戦にもつながっていくことがうまく循環していくと嬉しいなと思います。そんな想いも込めて、個人的に一番嬉しかった感想ポストを最後に引用して終わります。

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